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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)2963号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、原告から三〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録記載の動産を引き渡せ。

二  被告は、原告に対し、平成八年八月二一日から別紙物件目録記載の動産の引渡済みまで一か月三〇万円の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告の、その余を原告の各負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  請求

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の動産を引き渡せ。

2  被告は、原告に対し、平成八年八月二一日から別紙物件目録記載の動産の引渡済みまで一か月四五万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  事実

一  請求原因

1  原告は、平成六年一〇月末頃、別紙物件目録記載の動産(以下「本件バックホー」という。)を所有していた。

2  被告は、本件バックホーを現に占有使用している。

3  本件バックホーの一か月の賃料相当額は、平成八年八月二一日現在、四五万円を下らない。

4  よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき本件バックホーの引渡しを求めるとともに、不当利得または不法行為に基づき、本訴状送達の日の翌日である平成八年八月二一日から本件バックホーの引渡済みまで一か月四五万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。

三  抗弁(占有保持権原―即時取得)

被告は、平成六年一〇月末頃、結城政一から、本件バックホーを三〇〇万円で買い受け、その頃、結城政一から、本件バックホーの引渡しを受けた。

四  抗弁に対する認否

認める。

五  再抗弁

1  被告の悪意、有過失

被告は、本件バックホーを買った際、本件バックホーが結城政一の所有でないことを知っていたし、少なくとも、知らなかったことにつき過失がある。

2  盗品遺失物の例外

(一) 原告は、平成六年一〇月末頃、長野県下伊那郡泰阜村において、光井信俊及び田中康広に、本件バックホーを盗まれた。

(二) よって、本件訴え提起以降の時点においては、本件バックホーの所有権は原告に帰属する。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実は否認する。

2(一)  同2(一)の事実は不知。

(二)  同(二)の事実は争う。

七  再々抗弁(公の市場または同種の物を販売する商人からの買い受け)

1  山本和弘と結城政一は、平成六年一〇月当時、共同で中古の自動車や建設機械の修理、販売を業とする「オートショップヤマシロ」を経営していた。

2  被告は、本件バックホーを、「オートショップヤマシロ」の同業者である中西良の仲介で、結城政一から本件バックホーを三〇〇万円で購入した。

3  よって、被告は、原告が三〇〇万円の支払をしない限り、本件バックホーを引き渡さない。

八  再々抗弁に対する認否

1  再々抗弁1の事実は認めるが、結城政一が民法一九四条の商人にあたるとする点は争う。

2  同2のうち、被告が中西良の仲介で本件バックホーを購入したことは不知。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1の事実は、弁論の全趣旨により、これを認めることができる。

二  請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。

三  請求原因3の事実について検討する。

弁論の全趣旨によりその成立を認める甲第四号証によると、本件バックホーと同様のバケット容量を持つバックホーの一か月当たりのレンタル料は四〇万円であると認められる。

しかし、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める甲第二、第三号証、被告本人尋問の結果によると、本件バックホーは、平成四年六月に製造、型式登録されたもので、新品の車両価格は低く見積もっても約一〇〇〇万円であり、右登録から二年五か月経過すると価格が五〇〇万円から五五〇万円に落ち、五年経過すると、更に三八〇万円から四三〇万円にまで落ちることが認められる。

そうすると、本件における使用利益の認定に当たっては、本件バックホーは経年により価格が落ちていることを考慮すべきであり、被告は、本件バックホーの使用により一か月当たり三〇万円の利益を得ていると認めるのが相当である。

四  抗弁事実については当事者間に争いがない。

五  再抗弁1について検討する。

証人中西良の証言及び被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、被告が、平成六年一〇月末頃、本件バックホーを結城政一から購入したときに、被告が本件バックホーが結城政一の所有であると信じていたことを認めることができる。

被告が本件バックホーを結城政一の所有であると信じたにつき過失があることについては、本件全証拠によっても、これを認めるに足りる証拠資料はなく、かつ、原告から、被告の過失を基礎づける具体的事実の主張もなされていない。

六  再抗弁2(一)の事実は、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により、これを認めることができる。

なお、占有物が盗品または遺失物のときは、即時取得の成立が二年間猶予され(民法一九三条)、民法一九三条に基づき、原所有者が取得者に対して物の回復を請求できる期間における物の所有権は、取得者ではなく原所有者に属すると解すべきである(大審院大正一〇年七月八日判決民録二七輯一三七三頁、同昭和四年一二月一一日判決民集八巻一二号九二三頁参照)。

七  再々抗弁について検討する。

再々抗弁1の事実は当事者間に争いがなく、右事実及び前記認定の抗弁事実に証人中西良の証言、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、結城政一は、平成六年一〇月当時、山本和弘と共同で「オートショップヤマシロ」という屋号で自動車の修理を行うかたわら、「金融物」といわれる中古土木機械の販売も行っていたこと、再々抗弁2の事実を認めることができる。

たしかに、前記各証拠によると、「オートショップヤマシロ」の店には商品である土木機械が置いてあるわけではなく、本件バックホーも右店舗から遠く離れた場所に置いてあったことが認められるが、同時に、中古土木機械の販売をする業者は修理を主体とするところが多く、展示して販売するという方式はあまり一般的ではないという事情も窺えるので、右事実は、前記認定の妨げにはならない。

さらに、本件においては、本件バックホーの売買のような高額の契約が締結されるときは契約書を取り交わすのが通常であるにもかかわらず、被告本人尋問の結果によると、被告は、右契約書を紛失したとして、これを証拠として提出していないことが認められるほか、弁論の全趣旨によると、「オートショップヤマシロ」が扱う中古土木機械の中には賍物も含まれ、山本和弘と結城政一は本件と同種の窃盗事件及び別件のレンタカー詐欺事件でそれぞれ名古屋拘置所及び名古屋刑務所に在監中であるという事情も窺えないではなく、そのような者から本件バックホーを購入した被告に、民法一九四条による保護を与えることは適当でないと言えなくはない。しかしながら、証人中西良の証言及び弁論の全趣旨によると、原告に本件バックホーの購入を仲介した中西良は、個人で機械工具の修理、販売業等を営み、かつ、大型の機械については購入を希望する者に対し、販売業者を仲介してきたことが認められ、このように、被告が、建設機械の販売や仲介を業として行っている中西良の仲介もあって、結城政一から本件バックホーを購入したことをも併せ考慮すると、被告は公の市場において、またはその物と同種の物を販売する商人より本件バックホーを買い受けたと認めるのが相当であり、被告は、代価の弁償を受けるまでは本件バックホーの返還を拒絶できるものというべきである。

八  本件のように、民法一九四条によって物の返還を請求する原所有者が、代価を弁償するのでなければ物の返還を受けられない場合であっても、取得者が目的物の使用による代価の弁償をしなければならないかについて明文の規定はない。

しかし、前記六で説示したように、原所有者が回復を請求し得る期間、本件バックホーの所有権は原所有者である原告にあるのであるから、被告は、原所有者との関係において、無権限で本件バックホーを占有使用していることになる。

しかも、民法一八九条二項により、善意で占有を開始した者といえども、本件の訴えで敗訴した場合は訴え提起の時から悪意の占有者とみなされ、同法一九〇条により果実(果実には法定果実たる使用利益も含まれる。)を返還する義務を負うのである。そして、民法一八九条二項には、物の返還義務を負う者による訴訟遅延の弊害を防止する趣旨もあり、同法一九四条により保護される者に対してもその趣旨は妥当するものと解する。

よって、民法一九四条の適用がある場合といえども、取得者は訴え提起の時から物の使用により得た利益を、不当利得として回復者に対して返還する義務を負い、本件においても本件バックホーの所有権を取得し得ないとされた被告は、原所有者である原告に対し、訴え提起の時からの使用利益を返還しなければならないものというべきである。

九  以上の次第で、原告の本訴請求は、三〇〇万円を被告に支払うのと引換に本件バックホーの返還を、本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成八年八月二一日から本件バックホーの引渡済みまで一か月三〇万円の割合による不当利得金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

物件目録

製造会社      日立建機株式会社

形式        EX200

製造番号      64953

製造会社登録年月日 平成四年六月

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